啓蟄

 三月五日からは二十四節季の啓蟄。陽気に誘われ、土の中の虫が動き出すころです。一雨ごとに春になる、そんな季節の気配が感じられます。

 七十二侯の啓蟄初侯は、蟄虫戸を啓く(すごもりのむし とをひらく)。冬ごもりしていた虫が、姿を現わしだすころです。

 旧暦二月八日、今年は新暦三月五日は事始めの日。一年の祭事や農事をはじめる日です。旧暦十二月八日の事納めと対をなします。

 七十二侯の啓蟄次候は、桃始めて笑う。桃のつぼみがほころび、花が咲きはじめるころです。

 七十二侯の啓蟄末候は、菜虫蝶と化す。冬を過ごしてきたさなぎが羽化し、蝶に生まれ変わるころです。

 昔のひとは蝶のことを「夢虫」「夢見鳥」と呼んでいたようです。蝶になる夢を見たけれど、本当の私は蝶で、今人間になっている夢を見ているだけではないか? 荘子の「胡蝶の夢」。

 そうそう、三月三日は上巳の節句、桃の節句です。なのですが、今年の場合、新暦では三月三十日に当たります。それを三月三日にやってしまうのはちょっと早いような気も……。


  出典 白井明大=文・有賀一広=絵『日本の七十二侯を楽しむ』(東邦出版)