あふれる酒
近ごろの居酒屋でよく見る光景。日本酒を常温で注文すると。お皿や升のなかに置いたグラスに酒を注ぎ、グラスからあふれても注ぎ続ける。あふれた酒は下のお皿や升にたまる。つまり、あふれた分、お皿や升にたまったお酒がおまけということになるらしい。
これはたまたま、うっかりしてあふれたのではなく、わざとあふれさせたものである。また、特別な場合、特別な客へのサービスではなく、いつでもだれにでもそうしている。
これを店の心遣いと取って喜ぶひともいる。
だけどわたしはそうは思わない。たしかに店にとっては若干の損を出しているかもしれない。だけど、店の心遣いと見せつけるところが気に入らない。サービスしてくれるのなら、量を増すのではなく、安くしてくれたほうがありがたい。
気持ちの問題ばかりではなく扱いの問題もある。あふれた酒は当然グラスの外をぬらす。そんなコップを掴むと手がべたべたする。升はともかく、お皿は問題だ。お皿から直接飲むのも、お皿にたまった酒をグラスに戻すのも、どこかみっともない。
どうしても量を増したいのなら、グラスを大きくすればよい。でも、それでは店のありがたみが伝わらない。ということは、やはり、ありがたみを伝えたいがための演出であろう。どこもやるから、みなやらざるを得なくなってきたのかもしれない。
好ましからざる習慣だと思う。