天敵登場

 数日前のことである。眠りについてしばらくした後、甲高い羽音で目が覚める。

 やられたぁ。天敵の登場。蚊の奇襲を受けてしまった。気のせいかもしれないが、手の指の関節のあたりが痒くなってくる。羽音は断続的に近づいてくる。

 こうなるとおちおち寝てはいられない。しぶしぶながらも起きあがる。電気を点ける(ところで、単に電気と言って、どうしてそれが照明のことだとわかるのだろうか?)。

 枕元に常備してある殺虫剤をまき散らす。狭い部屋中に殺虫剤が充満する。自然愛好家もこのときばかりは影を潜め、人工の殺虫剤を浴びせたおす。

 痒みは気のせいではない。二箇所ほど赤い膨らみができている。そうとわかるとますます痒くなる。これも常備のかゆみ止め液をビタビタに塗りたくる。日頃の自然治癒優先説も姿を隠す。

 でも、蚊も莫迦だよな。つくづくそう思う。

 これくらいの血液ならいつでもやるよ。だから羽音など立てないでくれ。そして、刺したあとを痒くしないでくれ。それくらいのこと、簡単にできそうに思うのだが。できた蚊が生き残って、できない蚊は絶滅する。そういう自然淘汰はなかったのだろうか。あって欲しかった。