封印

 封印しているものがいくつかある。あることが成就するまでは我慢している。昔ながらの茶断ちのようなものである。

 ところが、何を封印しているのか、わからなくなりつつある。

 明らかなのは、落語の「唐茄子屋清談」。志ん朝の一番好きな噺である。できれば、もっと気分穏やかな状態で聴きたい。ということで、娑婆っ気や煩悩、苦悩、心配などがなくなるまでは聴けそうにない。

 バロック音楽。これは、アナログのレコードを二三年前にデジタル化したのだが、なんとなくもったいなくて聴けないでいる。特に封印しているわけではないのだが……。

 ブーブクリコ。カサブランカに出てくるシャンペン。酒屋で見かけ買ったのだが、何か良いことがあったら飲もうと思っているのだが、特に良いことが見あたらず、これまで飲めずにいる。

 本。読み終えてしまうのがもったいなくて、読まずにいる本が何冊かある。連載本であれば、次が出てから最新のひとつ前を読むようにしている本もある。

 こしてみると、これらを封印しているからといって、なにかのパワーになるわけではなさそうなことばかり。だったら、封印なんてやめて、さっさと享受していまうほうが良さそうに思える。ブーブクリコ以外は減るものでもないのだからなおさらだ。馬鹿な意地を張るのもいい加減したほうが良いのかも。

 と、わかっちゃいるけど、なかなか踏み出せないのが悪い癖。