つい最近

 〝つい最近〟と思うようなことでも実際には十年前、二十年前なんてこともある。

 人生における十年の比率は年を取るとともに減ってくる。六十歳の老人にとって、十年は人生の六分の一なのに対して、二十歳の若者にとっては人生の半分、十歳の子どもには十年前は存在しない。老人にとって、つい最近とも感じられることも、若者にとっては大昔、記憶もあやふやなことになってしまう。

 もうひとつ、年を取ると生活に変化が少なくなるので、時間的には昔のことでも、出来事の数から言えばさほど前のことではない。このため、つい最近と感じることもあるようだ。

 そうでありながら、いっぽうでは、本当につい最近の出来事であってもなつかしさを感じることもある。たとえば、昨年三月の大震災。大きな揺れに恐怖を感じ、迷いながら暗い道を歩いて帰ったことになつかしさを覚えてしまうから、不思議だ。

 人間の感覚というものは、一元的には測れないものらしい。