見かけなくなった人

 毎日顔を合わせていたのに、あるころからプッツリと見かけなくなる人がいる。それが高齢者だとちょっと気になる。

 散歩で海岸へ行くとよくお会いした老人がいた。迷彩柄のシャツを着て、マウンテンバイクに乗ってやってくる。ウッドデッキに自転車を止め、そこに座り、帳面を取り出し何やら書き付けている。なんとも格好良い。こっそり〝拝啓、爺ちゃん様〟と呼んでいた。

 一度声をかけられ話す機会があった。そこから自転車で三十分くらいのところの県営住宅で一人暮らしをしているとのことだった。

 遭うときは散歩の都度、ほぼ毎回遭っていたのだが、あるときからプッツリと見かけなくなった。県営住宅も海に面しているし、また近くには県立公園もあるのでそちらに切り替えたのかも知れない。そうなら良いのだが……。

 毎朝すれ違っていた老人。雨の日も、酷暑の日も、ゆっくりゆっくり歩いていた。どこからどこへ歩いていたのかはわからない。このかたもプッツリと遭わなくなった。良い解釈はちょっとしづらい。歩けなくなったのではなかろうかとか、どこか施設へ入所したのだろうかとか、悪いほうへ憶測がむいてしまう。

 近所のスーパーで交通誘導をしている老人。野外の仕事のため真っ黒に日焼けしている。帽子からはみ出す白い長髪が印象的。いつ休むのかと不思議なほど、平日も休日も仕事をしていた。

 が、ある日を境にもっと若い人に変わっていた。老齢で引退したのだろうか。それなら良いのだが、もしかしたら……、などと余計な推測をしたりもした。が、しばらくしたら、いつの間にか復帰していた。いまも前を通れば必ず顔を見ている。良かった、良かった。