誕生日

 満六十歳の誕生日を迎えた。

 六十歳というと還暦を思い浮かべがちだが、そちらのほうは数え六十一になった年明けに意識し受け入れた。

 いっぽう、満六十といえばサラリーマン社会では定年の歳である。同級生達からぞくぞくと定年の知らせが入ってくる。素直に定年を迎える奴もいれば、役員やら嘱託やらで仕事を続ける奴もいる。

 わたしはといえば、五十七で自主定年を迎えた積もりでほくほくしていた。が、それも束の間、老後資金の不足に気がつき青ざめる。なんとか非常勤の職にありつくが、非常勤というのは給与の話で、勤務時間や職務は一向に楽ではない。

 もし、あのとき辞めずにあと三年我慢していれば、いま晴れて定年を迎えることができたはずである。非常に複雑な心境だ。

 我が人生、仕事と金については運が悪いというか、見通しが悪いというか、立ち回りが下手というか、要するにうまくいかなかった。

 とまあ、いささか気落ちする六十の誕生日であった。