啓蟄末候

 三月十六日からは七十二侯の、菜虫蝶と化す(なむしちょうとかす)。冬を過ごしたさなぎが羽化し、蝶に生まれ変わるころです。やわらかな春に日を浴びて、羽がみずみずしく輝きます。

 昔の人は、蝶のことを「夢虫」や『夢見鳥」と呼んでいました。荘子の「胡蝶の夢」に由来するそうです。蝶になる夢を見たけれど、本当のわたしは蝶で、いま人間になっている夢を見ているだけではないか。という話です。

 暦日三月十六日は、田の神さまが山から里へ下りてくる日です。十六個の団子を作ってもてなします。田の神荒れといって、この日は天候が荒れやすく、神さまに出くわさないよう、田んぼに行ってはいけないことになっていたとか。


  出典 白井明大=文・有賀一広=絵『日本の七十二侯を楽しむ』(東邦出版)