うまいもん残し

 わたしには〝うまいもん残し〟の性格が根付いている。いやなこと、やらなければならないことを先に終わらせてから最後に楽しいこと、大好きなことをやろうとする性格である。これは楽しいことに心置きなく専心するためである。

 いやなことややらなければならないことが残っている状態で、さきにお楽しみに取りかかっても、いやなこと、やらなければならないことが心をよぎって、十分に愉しむことができない。そうならないように、ほかのことを全部すませてから最後まで残しておいたお楽しみ取りかかる。こうすれば、ほかのことを気にすることなく全力でお楽しみに取り組むことができる。

 どちらがよいとはいえないけれど、これまではそのひとの性格に応じてどちらでもよかった。

 が、老いてくるとそうはいかないことに気がついた。人間はいつかは死ぬ。お楽しみを残しておいても、かならずできるとは限らない。いやなことやらなければならないことをやっているうちに命が尽きてしまうことも大いにあり得る。うまいもんをのこしたまま、手をつけぬまま死んでしまうこともある。

 これからは、うまいもん残しではなく、いやなことやらなければならないことをあとにして、お楽しみ先にするほうが良さそうな気がする。お楽しみに耽り、それを堪能したあとまだ生きていれば、仕方がないのでいやなことやらなければならないことに取りかかるのでもよいかもしれない。

 とわかって、さてはたして、みずからの性格を変えていくことができるだろうか?